少年は森の茂った山の中を歩いていた。
そしてその全身は青アザだらけだ。
事故による怪我ではない。

その少年はある名門剣術を伝える家に生まれた。
その家は代々、男に剣を伝え1000年以上の時を歩んできた。
その少年は正室の子、長男としてこの世に生を受けたのだが、
たぐい稀なるその格闘センスの高さは常人のそれをはるかに超えており、
13歳になった今では並の大人など歯牙にもかけぬほどの剣術を身に付けてしまっていた。

少年の母親は生まれつき体が弱く、数年前に他界してしまった。
それと同時に継承者の地位が絶望的な次男と、継承者の地位を諦めきれぬその母親に『剣鬼』と呼ばれ、理不尽な虐待を一身に受ける羽目になってしまったのである。

もちろんそれを撃退するのは少年にとっては造作もない事だ。
常に木刀も帯刀している。実にたやすい。

しかし少年はその虐待をあえて受けつづけた。
その少年は理由もなく剣を振るう事を何より嫌っていたのだ。
戦う事の真の意味を、よく理解していた。


その少年の名は『御剣 剣十郎』と言った。


剣十郎は虐待を受けた後はいつもある場所に向かっていく。
その場所は巨木の上。
すぐ横に壮大な滝が見え、目の前には地平線の奥まで途絶えることのない広大な森。

その昔、日本と呼ばれたのこの地はこうした隆起地形の多いことで有名だった。
その中でもここは、剣十郎しか知らない抜群の絶景ポイント。『穴場』だった。

剣十郎はそうした風景がとても好きだった。

「・・・」

剣十郎は無口だ。
父は厳格で多忙なため剣の稽古の時間しか顔を見せないし
次男
やその母は剣十郎をまるで家畜のように扱う。
唯一の話し相手であった母も、数年前に他界してしまった。

しゃべりたくとも、話をしたくとも、その相手がいなかったのである。

「!」

しばらくその絶景を見ていた剣十郎だったが何かに気づいたように地面に降り立つ。
剣十郎は付近に人の気配を感じた。
この山一帯の気配を感じることなど剣十郎にしてみれば造作もないことだった。

しかしこのあたり一面は御剣家の私有地だ。
だがこの気配は御剣家の人間の気配ではない。
全部で3人・・・かなりのスピードで移動している。

「・・・」

剣十郎はその気配のするほうに駆けていった。





ほどなくして剣十郎は移動する気配の元へたどり着いた。

「・・・?」

剣十郎は木の枝からその気配の元を観察した。

「はあ、はあ、はあ、はあ!」

先頭の一人は女の子。自分と同じくらいの年齢だろうか?
巫女装束に身を包み、その手には剣袋に入った何かを抱えている。

「フフフッ!にがさぬ!」

「おとなしく観念するのだな!!」

後ろの二人。
全身黒ずくめでサングラスなどかけている。
状況から見て、少女はこの二人組みに追われているらしかった。

「はあ、はあ、はッ、ああ!?」

「!」

トサッ!

ふいに少女が何かに躓いて転んでしまう。
ついに黒ずくめの男たちに追いつかれてしまう。

「ははは・・・もう限界だろう?さっさとそれをよこさないか?」

「・・・お断りします」

少女は剣袋をギュッと抱きしめる。

「強情だねえ・・・」

「で、兄貴。あれなんなんスカ?」

「・・・このばっかやろう!!そんぐらい覚えとけ!!」

「す、すんません!」

「ったく・・・いいか!?俺たちの組織が、何を扱ってるかは知ってるよなあ?」

「魔剣・・・および邪剣スよね?」

「そうだ。使い手の力を増幅してくれる夢の剣・・・これも500年戦争の遺産さ」

黒ずくめの男は腰に刺してある剣・・・『魔剣』の柄に手を当てながら答える。

「遺産兵器よりも使い勝手が良くて、対白兵戦用に無敵の強さを誇る・・・って社内本に載ってたッス」

「そう。そしてこいつの持ってるこの『ブツ』は、魔剣や邪剣を破壊するために作られたウイルスみたいなモンなのさ」

「そんなものがあったら・・・」

「商売あがったりってワケだ・・・そういうわけだから嬢ちゃん・・・そいつを渡しナ」

黒ずくめの男は『魔剣』を少女に突きつける。

「いやです・・・!」

少女は剣袋を抱きかかえたまま悠然と答える。
しかしその全身は細かに震えている。

「実力行使って手もあるんだぜ・・・!?」

男は魔剣を振りかぶって一気に振り下ろす。

「・・・!!」

少女は目をつむって襲ってくるであろう痛みに備える。あまりにも無力な抵抗だった。

が。

魔剣は少女を傷つけることはなかった。

ボガシャアアア!!

「ぐあああッ!!」

「!?」

少女はいつまでも襲ってこない痛みと奇妙な声に目を開ける。
するとそこには、木刀を構えた少年が自分を守るようにして立ちはだかっていた。

「・・・あなたは?」

「・・・」

しかし、少女の目を見るだけで剣十郎は何も答えない。
そうこうしている間に、魔剣を持っていないほうの男が剣十郎に向かって刀を振り下ろしてくる。

「あ、あぶない!!」

「・・・」

しかし剣十郎は慌てることもなく、男の刀の『腹』に向かって木刀を打ちこむ。

バッキイィィン!!

男の刀は剣十郎が打ち込んだその個所から真っ二つに折れる。

「な・・・なんだあ!?木刀で真剣を叩き折るだなんて!!?」

ズドン!!

「グハアアッ!!」

すかさず剣十郎は男の腹に向かって木刀を突きこむ。
男はたまらず吹き飛んだ。

「・・・すごい・・・!」

少女は呆然として呟く。
と、魔剣を持った男が立ち上がる。

「てめえ・・・どこのどいつだかしらねえが・・・ぶっ殺す!」

すると・・・魔剣から急に黒い光の帯が飛び出す。
その黒い光の帯は男の体を取り巻いて体の中に溶け込んでいく・・・

「!?」

剣十郎は目を見開いて驚く。
黒ずくめの男は見る見るうちに体の筋肉を盛り上げていくではないか。

「驚いたか・・・?これが魔剣の力だあ!!!」

「!」

ザシュッ!!

「あ・・・ッ!」

少女が短い悲鳴をあげる。

「!」

剣十郎の木刀は柄から先を切裂かれていた。
剣十郎は男のあまりの斬撃の速さに反応できなかった。

「・・・!」

剣十郎は木刀の柄を投げ捨てる。
が、その目に宿る闘志の光は衰えを見せなかった。

「気に入らないね・・・!!」

ゴッ!!ズダンッ!!

「・・・!!」

剣十郎は蹴り倒されて後ろの木にその身を強く打ち据え、ズルズルと根元に座り込む。

「そろそろ死ね」

「!だめ!!」

無慈悲に振り下ろされようとした魔剣と剣十郎の間に少女が割ってはいる。

「わかりました・・・これはあなた方に差し上げます!
 私の命が欲しければそれもいいでしょう!だから!この人だけは・・・!!」

「・・・!」

剣十郎の苦痛にゆがむ表情が驚愕に染まる。

「だから、この人の命だけは・・・!!」

「この場を治める一番いい方法・・・なんだかわかるか?」

「え・・・?」

「こいつも死んで、てめえも死んで、ブツを回収できればそれでハッピーエンドなんだよ!!」

「そんな・・・!」

ポンポン

「え?」

後ろから肩を叩かれて少女は振り返る。

剣十郎だった。
少女は剣十郎に向かって微笑みながら静かに諭す。

「・・・だいじょうぶです。あなたの事は私が命に代えても・・・!」

少女は男の方を振り返るが

ポンポン

「・・・え?」

フルフルフル・・・

剣十郎は無言で首を振る。

「・・・ダメだって・・・いうんですか?」

コクン

「でも・・・この場を何とかするなど・・・!」

フルフルフル!

ジー・・・

剣十郎は先ほどよりも強く首を振ると少女の目をジッと見詰める。

「・・・!わかりました。そこまでおっしゃるなら・・・これを」

少女は剣袋の中から一振りの見事な装飾が施された刀を取り出し、剣十郎に握らせる。

「この剣は名前がありません。
 この剣に選ばれた者が名前を授けると鞘から抜いたその時に、
 その人だけの、この世で立った一本だけの刀身が現れるという伝説の神剣です。」

「・・・」

「ゴチャゴチャうるせえぞ!!そろそろ二人まとめて死になァ!!」

男は魔剣を少女に向かって振り下ろす。

キィイン!!ギギギギ・・・!

「・・・!」

剣十郎は魔剣が少女に触れる前に刀の鞘で受け止める。

「な・・・なに!?だ、だがその剣に選ばれなけりゃあ、そこで終わりよォ!!」

「いえ・・・なぜか私にはこの方が選ばれる・・・そんな気がしてなりません」

「ほざけッ!!」

「・・・」

剣十郎は心の底から思った。

この子を守りたい・・・!

生まれて初めて他人を守りたいと、そう思った。
最初は無我夢中だった。

だが、戦う理由ができた。
この子は自分を守ってくれた。

死をも覚悟して。
ならば、今度はこちらがその思いに答える番だ。

「・・・ボソ

「え?」

スラッ・・・

剣十郎の呟きが聞こえたかと思うと鞘から刀身が抜き放たれる。

「な・・・」

ヒュッ!ズギャシャア!!

「か・・・!!」

ドシャッ!!

「・・・え?」

少女は驚いた。
ほんの、瞬きをしている間に魔剣はこなごなに砕け散り、男は木にその身を打ち据えていた。

「いったい・・・なにが・・・?」

「・・・」

スー・・・チンッ!

剣十郎は静かに刀を鞘に収める。

今の技は剣十郎が考案中の稽古で習ったものとは違う、まったく新しい技だった。
一瞬のうちに間合いを詰め、左足を軸に回転をかけた斬撃を繰り出す必殺剣だ。
名前はまだ無く、まだまだ改良が必要だと剣十郎は考えていた。

「あ・・・兄貴!!」

今まで気絶していた男が魔剣の男を抱き起こして剣十郎を睨んだが

ギロ・・・

逆に睨み返され、剣十郎の無言の圧力に耐え切れなくなり

「ちくしょう!覚えてろッ!!」

歴史ある由緒正しい捨て台詞をはいて逃げていった。

「・・・!」

ふう・・・と剣十郎は息を吐き出す。

「あの・・・だいじょうぶですか?」

「!」

コクン

少女の問いかけに剣十郎は少し赤くなって答える。
そういえば、同年代の女の子と話をするのは初めてかもしれない。
それに、この少女はお世辞抜きでかなり可愛い。

「あの・・・危ない所を本当にありがとうございました・・・私は『美月』。『闇夜 美月(やみやみつき)』。あなたは?」

「・・・剣十郎。御剣 剣十郎。」

「剣十郎さん・・・ですか。クスクス・・・」

「?」

少女・・・美月が急に笑い出したので剣十郎は首をかしげた。

「あ、ご、ごめんなさい。最初から今までずっと黙っていらっしゃったのでてっきり・・・喋れないのかと・・・」

「・・・すまん」

「い、いいんですよ!私のほうこそ失礼しました」

赤くなって謝る美月に剣十郎も赤くなって首を振る。

「・・・どうやら本当にこの神剣に選ばれたみたいですね」

「・・・神剣」

「はい。魔剣や邪剣を破壊する使命を帯びた神聖なる神の剣です」

「・・・」

「ところで・・・この剣、どのような名前を付けたのですか?結局、剣十郎さんの剣撃が速すぎて刀身も見えませんでしたし」

てへっと舌を出しながら美月はたずねる。
美月の仕草にいちいち赤くなりながら剣十郎は答える。

「・・・『轟雷剣』」

「『轟雷剣』・・・ですか?」

「・・・変か?」

「いいえ・・・!・・・とても力強い・・・いい名だと思います」

「・・・そうか」

剣十郎は本当に数年ぶりに微笑んだ。





剣十郎「こうして美月と出会ったわけだ」

エリィ「ふむふむ・・・なるほど・・・おじ様が無口だったなんて意外です〜」

剣十郎「フフッ・・・そうかい?」

エリィ「お話してくださってありがとうございます!おじ様♪」

剣十郎「いやいや・・・しかし、何故また急にこんな話が聞きたいだなんて?」

エリィ「いえいえ、単なる気まぐれッスよ〜♪」

剣十郎「フフッ・・・、そうか」

志狼「お〜い、食事の用意ができたぞ〜!エリィ、お前も食ってくか?」

エリィ「うん!シローの手料理シローの手料理♪」

剣十郎「・・・美月。ワシらの息子も・・・大変な運命の歯車となっているようだ・・・血は・・・争えんと言うことか」


にこっ・・・


剣十郎「!?美月!?・・・そうだな・・・できることを、ワシにできることをやってみるさ・・・」



なあ・・・美月・・・







突発てき番外編〜♪お父様バージョーン!!

このごろヴォルライガー更新してなかったから寂しくて・・・つい書きました(マテ

他にもエリィにレポートさせてみようかなあ(笑)

もうすぐ第三話公開しますからもうちょっとまってくださいね〜(苦笑)

ではでは・・・

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