ドシュドシュザシュッ!!
「カカカカカカカッ!おいおいさっきまでの勢いはどこ行ったよ!?」
「・・・」
ヒュンヒュンヒュンッ!
先ほどからティーマは目にも止まらぬ速さで飛び回り、ナイフで切裂いて離脱、ということを繰り返している。
エリクはすでに全身を何箇所か切裂かれている。
「おいおいまさかこれで終わりなんてこと・・・ありえねえよなあ!?」
「当然です」
「ち・・・!減らず口をッ!!」
ズバッ!!
左頬を切裂かれる。
「あなたは見かけによらず練習熱心ですね」
「何ッ!?」
バシュッ!
右肩を切裂かれる。
「あなたが繰り出している一撃は一つ一つが必殺の名のもとに繰り出されているもの」
ビシュッ!!
左腿を切裂かれる。
「そして目にも止まらないスピード」
シュパンッ!!
右胸を切裂かれる。
「紙一重で避けるのが精一杯です」
バシュッ
左腕を切裂かれる。
「が・・・すでにあなたの次の動きは完全に予測できます」
「見切ったとでも言うのかよッ!」!
「いいえ、僕は見切りなど使えませんよ。僕にできるのは・・・」
キッ!!
「何ッ!?」
目にも見えないスピードといったばかりなのに、エリクのその目は完全にティーマを捕らえている。
「観察だけです」
右手を胸の前に持ってきてマイトを集中させる。
「風による捕獲(Wind Capture)」
右手を横に払う。
すると今まさに飛び掛らんとしていたティーマの体が小さな竜巻によって封じられてしまう。
「あなたは相当な反復練習をこなしていますね」
「ぬ・・・く・・・!」
必死に四肢を動かそうとするのだが指一本動かすことは出来ない。
「ですが『必殺』・・・一撃のもとに敵を倒すということならば、急所ねらいの攻撃を繰り出してくる可能性が極めて高い。
僕の運動神経でも予測が立てば避けるのも苦労はありません。
そして・・・何よりあなたの攻撃にはパターンが出来てしまっているんですよ」
「何ッ!?」
エリクは静かに右手で拳を作り、頭上に掲げる。
拳に・・・マイトが収束していく。
「5撃前を例にとって言うと左頬、右肩、左腿、右胸、左腕・・・」
「う・・・あ・・・」
マイトが収束していくと・・・なんとエリクの髪の毛が白み掛かり、そして瞳が赤く輝きだす。
「左、右、左、右、左・・・実にわかりやすいでしょう?
そして、パターンができていたことに自分自身で気づいていなかったことが・・・」
そして掲げていた右手を腰だめに構える。
「敗因だ」
拳を突き出しながらマイトを飛ばす。
「風の剣(Wind Sword)ッ!!」
ドギャアアアッ!!
風の塊がティーマの体を宙に跳ね飛ばす。
「ぐ・・・は・・・この風のマイト・・・まさか貴様・・・エリク=ベル!?赤眼の魔術師か!?」
「当たりです」
ドウッ!!
地面に叩き付けれるティーマ。
何とか上体を起こして立ち上がる。
「まさか貴様が御剣剣十郎と共にいるとは・・・」
「十分予測できたでしょう。彼は僕の親友なんですから」
「く・・・」
赤眼の魔術師。
その緻密な作戦と観察力。その華麗なマイトを操る術。
そして、マイトを発動させるとほのかに白く輝く髪と、青から赤へ変化する瞳。
それらからエリクはいつからかRed Eyes Magician・・・赤眼の魔術師と呼ばれるようになったのである。
「だが納得いかない・・・!風のマイトでこんな仮想空間を作り出せるものなのか!?」
「情報不足でしたね。だからあなたは負けるんです」
「なんだと!?」
ゴッ!!ドサッ!!
裏拳をティーマの頬に叩きつけるエリク。
叩かれたティーマは再び大地に倒れ付し、今度は起き上がることが無かった。
「いつ、誰が僕のマイトは風だけだと言ったんですか?」
白衣のポケットからハンカチを取り出すとティーマを殴った手を拭き始める。
「さて・・・剣十郎はどうしてるかな?」
ブウンッ!!ビョウッ!!ビュバアッ!!
「チイッ!!」
「・・・」
一方こちらはかなり一方的な展開になっていた。
剣を振るっているのはローディなのだが剣十郎はそれらを全て『目をつむったまま』かわしていた。
「当たりさえすればッ!!」
「ほう、当たりさえすれば?」
ピタリと剣十郎はその動きを止める。
そして左手を差し出すように前に出す。
斬ってみろ、ということらしい。
「当たりさえすればッ!!!!」
ズバンッ!!!
ニヤリ、とするローディ。
だがその次の瞬間にはローディの体に鋭い痛みが駆け抜けていく。
「ぐああああああああああァッ!?」
「雷結界。攻撃してきたもの、触れたものに電撃による反撃を行う防御術だ」
「お・・・おのれえッ!!」
「まあもっとも・・・」
ひゅ・・・ガシンッ!!
「!?」
無造作に振るわれたバスターソードの一撃を剣十郎は親指、人差し指、中指の三本の指で摘むように止めてしまう。
「結界なぞ無くても受けることは造作もないことだがな」
バキィッ!!
指をひねってバスターソードの刀身を真ん中から真っ二つに折ってしまう。
「終わりだ」
バシュバシュドシュッ!!
「い・・・いつの間に・・・!」
ローディの体のいたるところから血が噴出す。
避けながらローディに一撃を加えていたようだ。
「志狼のほうが速い」
「お・・・おのれっ!こうなったら・・・!」
ローディは腰につけていた妙な鉄製のボールを取り出す。
それを放り投げると、そのボールは空中で静止して光の線で何かを描き始める。
「あれは・・・」
「!エリク・・・カタがついたのか」
「当然。それよりもあれは・・・」
光の線が輪郭を描く。その輪郭が次第に鉄の肉体をまとい始める。
「いでよ!メタルゴーレムッ!!」
バシュンッ!!
光が辺りを照らすと、完全に具現化された『メタルゴーレム』が姿をあらわした。
その造型を例えるなら・・・鋼のマッチョマンといった所だろうか。
「ふん。またぞろ骨董品のお出ましか」
「ふふ・・・そういわないでくれ剣十郎。アレは僕が発掘したものなんだから」
「ほう」
「属性は『無』。何も無い空間に物質を作り出す無属性の特性を持つ遺産兵器の一つさ。とても強固な装甲を持つなかなかの強敵だよ」
「その通りだッ!!はたしてこいつに勝てるかな!?やれ!メタルゴーレムっ!!」
「面白い。ためしてやる」
ヒュ
この場の全員が瞬きをした一瞬で剣十郎は一気にメタルゴーレムの懐に入り込み、横薙ぎに刀を振るう。
バギ・・・
「!」
そして振りぬかぬままエリクのそばに飛び退る。
「わかっただろう?なかなかの強敵さ」
「ああ・・・マイトによる防御壁に堅牢な装甲。あのまま振りぬいていたら刀をやられていた」
「はははははッ!!その通りだ!!」
まるで自分が剣十郎たちを圧倒しているかのような口調で高笑いするローディ。
「こいつが正真正銘、最後の切り札だ!やれるものならやってみろ!!」
「・・・ちょっと不快」
「だな。エリク、アレを仕掛けるぞ」
「アレですか。アレは・・・疲れるんですがね」
不敵な笑いを交し合う剣十郎とエリク。
「よく言う。赤眼の魔術師」
左手を前に、右手の刀は自然に構え腰を深く落す。
「じゃあ・・・行きますか、鬼神様」
左手の中指で眼鏡を押し上げ、右手で拳を作り、頭上に掲げる。
拳に・・・マイトが収束していく。
バシュッ!!
またも一瞬でその姿を消すと剣十郎はメタルゴーレムの真上で刀を振り上げる。
「御剣流剣術・・・『御雷落し(みかづちおとし)』ッ!!」
ビシャアアアアッ!!!!
まるで雷でも落ちたかのような騒音があたり一面に響き渡り、メタルゴーレムは二、三歩後退する。
マイトの防御壁に亀裂が走る。
そして間髪いれずに剣十郎がメタルゴーレムの目の前から姿を消すと、その向こうには腰だめに拳を構えたエリクの姿が。
「風の剣(Wind Sword)ッ!!」
拳を突き出しながらマイトを飛ばす。
ドギャアッ!!パリィーーーン!!
風の塊が防御壁に当たると防御壁はガラスが割れたような音と共に完全に砕け散る。
「な・・・!?だ、だがメタルゴーレムの堅牢な装甲を破れるものかッ!!」
「甘い」
エリクは左手の人差し指と中指を揃えて立て、そこに風のマイトを収束させていく。
そしてその指で何かを描くかのように振る。
「風の短剣(Wind Dagger)ッ!!」
シュシュシュシュパンッ!!
エリクの指から放たれたマイトは鋭利な真空波になり、
メタルゴーレムの左肩、右肩、そして両足の付け根を的確に捉え亀裂を作る。
「御剣流剣術・・・『電光石火(でんこうせっか)ッ』!!!!」
ズババババシュッ!!
エリクが『印をつけた個所』を目にも止まらぬスピードで切裂く剣十郎。
メタルゴーレムの体から右手、左手、右足、左足が完全に離れる。
「ば・・・馬鹿なッ!?」
エリクは左手を開いて頭上に掲げ、右手で拳を作ると胸の前に突き出し、
今までで最大級の風のマイトを収束させていく。
そして全く逆方向に回転する竜巻が両の腕にからみつく。
「終わりです」
突き出した右の拳に、まるでマッチで火をおこすように左手をこすり合わせ、振りぬく。
「風の聖剣(Wind Calibur)ッッッ!!」
ギャズンッッッ!!!!
風の塊を竜巻が取り巻き、真空波を撒き散らしながら飛ぶ風が回りの土をえぐりとりながらメタルゴーレムに直撃する。
メタルゴーレムはまるでパチンコの玉のように竜巻の中を飛び回りそのボディを削り取られる。
既にメタルゴーレムのボディは亀裂だらけだ。
「ここで・・・決める」
剣十郎は刀を大上段に構え、
右足を引いて半身になるとスッと切っ先をメタルゴーレムのコアに向けてまっすぐ構える。
「御剣流剣術奥義・・・」
そしてローディやエリクが瞬きをしている間にメタルゴーレムの向こう側に立ち、刀を一振りする。
「轟雷斬」
すると一瞬間を置いてメタルゴーレムが光を発し、
ガオオオオオオオオオオオン!!
それよりも遅く、あたりに雷が落ちたような騒音が響き渡り爆裂四散する。
「やはり見えないな・・・剣十郎の轟雷斬は」
御雷落しから10秒足らず。
終わってみれば一度も反撃出来ずに爆発、炎上するメタルゴーレム。
「ば・・・馬鹿な・・・メタルゴーレムが・・・!!」
「メタルゴーレムとて弱点が無かったわけではないんですよ」
炎上するメタルゴーレムを呆然と見つめていたローディをエリクが現実に引き戻す。
「連続攻撃して結界と装甲をいっぺんに破壊したとでも言うのか?!」
口で言うのは簡単だ。
だが報告では、実験をしたところメタルゴーレムの装甲はどんな遺産兵器を用いでも傷一つつけられなかった。
装甲だけ取れば間違いなく今まで発見された遺産兵器の中でも最強のはずだった。
もちろん遺産兵器のブラックボックス中のブラックボックスである『勇者の鎧』を例外として。
「半分あたりで半分はずれです」
「!?」
「たしかに防御の許容量を超える攻撃を繰り出せば簡単に倒せる。
それが弱点ではあるのですが、今の僕等はそんなことは考えて出したわけではありません」
「どういうことだ!!」
「剣十郎と僕の究極合体技『雷嵐舞』」
「今までこれで破壊できなかった敵は・・・皆無」
「!!」
「ただそれだけなんですよ。相手がなんだろうが関係ない。
ただこれを使えば相手を倒すことができる。だから『雷嵐舞』を使ったわけです」
「む・・・」
ムチャクチャだ・・・
巨大人型兵器の武器でも傷一つつけられなかったものが、たった二人の人間の手で完全に破壊されるとは・・・
「そ、それに・・・刀は通じないんじゃなかったのか!?」
「馬鹿者が。武器にマイトを宿らせるなど基本中の基本だろうが」
それにしてもどれだけのマイトが必要だろうか?
素で全く斬れなかったものがマイトを宿らせただけでああも簡単にいくはずが無い。
「ま・・・まさかここまでとは・・・!!」
「手を出すな、といったはずだ」
膝をついて脱力するローディの首を左手で掴んで軽々と持ち上げる。
そして右手に持った刀で横薙ぎに胴を切裂く為に振りかぶる。
「ぐ・・・うう・・・」
「地獄すら生ぬるい苦しみを与える・・・ともな」
そのまま刀を横薙ぎに振るう。
ビュッ
そしてそのままローディの体は腰から上と下に分かたれるだろう。
だが剣十郎の刀がローディの体に触れる寸前、剣十郎の頭に志狼の言葉がよぎる。
「なあオヤジ。『殺気』ってどう出すんだ?」
「!!」
ピタリ
突然、剣十郎の刀がその動きを止める。
「!?」
既に死を覚悟していたローディは閉じていた目をそっと開く。
すると突然体が宙に浮かび上がり、
ドボオオオオオッ!!
「はおおおおおう!!」
そして腹に何かが突き刺さるような猛烈な激痛が走る。
ガシャアアアア!!
突き刺さったのは刀ではなく、剣十郎の拳である。
掴んでいた左手でローディを投げ、刀を持ったまま右の拳で降ってきたローディの腹を思いっきり殴りつけたのである。
殴られたローディの体は「く」の字ではなく「つ」の字に折れ曲がり、鎧は完全に砕け散る。
「地獄すら生ぬるいだろう」
「うわあ・・・」
さすがのエリクも思わず目を手で覆ってしまう。
たしかに地獄すら生ぬるいだろう。
ローディは大量の泡を口から吐いて気絶していた。
「なぜ斬らなかったんだい?剣十郎」
「斬る価値も無い。それに・・・」
ピキン・・・ボロボロボロ・・・
「当の刀がこれ、だからな」
たしかに刀にマイトを宿らせての攻撃は有効だったのだが剣十郎のマイトの出力が強すぎて刀の方がもたなかった、というわけである。
「これでは斬ろうにも・・・斬れんだろう?」
フイとエリクから視線をはずして剣十郎は刀身の無い刀を木刀に見せかけてあった鞘に収め、腰の帯に掛ける。
「・・・ま、そういうことにしておこうか」
クスクスとエリクは微笑しながら呟いた。
ピキンッ
エリクが中指と親指をはじくと、領域(Field)が消滅し、剣十郎とエリクが現実空間に復帰する。
大量の獲物と共に。
ゾクリ・・・!
帰還した剣十郎とエリクはその場の異様な雰囲気に背筋を凍らした。
なんと町内会の人間が全てひっくり返って気絶しているのである。
店内の明かりは落ち、テーブルの上のものは全て床に落ちていて
椅子などはまともに立っている数を数える方がはるかに早い。
「な・・・なんだ?打ち漏らし・・・もしくは新たな刺客・・・!?」
「いや・・・僕はともかく、剣十郎をここまで緊張させる刺客がいるとは思えない・・・!」
「彼女だよ・・・彼女がやったんだ」
「!マスター!」
カウンターの下から唯一気絶していないマスターが顔を出す。
剣十郎とエリクは周囲に警戒しながらカウンターに、マスターの近くに近寄る。
「いったい何があった?」
「か・・・彼女が・・・」
ブルブルと身を震わせてただ一点を指差す。
その場所には町内会の人間が山積みになって倒れている。
その上にはうっすらと人影が見える。
「か・・・彼女に・・・」
エリクはまさか・・・と呟きながら顔面蒼白になっていく。
剣十郎は思い出していた。
そう・・・この気配。
昔感じたことがある・・・
まだ剣十郎が神剣『轟雷剣』を手にしていて、美月やエリク達と共に旅をしていた頃・・・
一軒の酒場で・・・
「思い出したくも無いものを・・・思い出してしまった・・・」
「町長さんが彼女にお酒をすすめたんだ・・・そしたら・・・」
「馬鹿な・・・彼女に・・・!?」
だんだんと目が慣れてきて、町内会の人間の山の上に座っている『彼女』の顔が見え始める。
「死にたいのか!?」
「リィスに酒を勧めるなんてッ!!」
「あはははははははははははは!!!!」
轟ッッッ!!!!
「どわああああああ!!」
「ぐうううううううっ!!」
「わあああああああ!!」
ドンッ!ドンッ!!ベチッ!!
剣十郎、エリク、マスターは強烈な風のマイトによる突風をまともに受けて壁に叩きつけられ、壁に体がめり込む。
その衝撃で腰から下げていた木刀が派手な音を立てて粉々に砕け散る。
「マスター!?マスター!!」
剣十郎の必死の叫びもむなしく、壁に叩きつけられた衝撃でマスターは気を失ったらしい。
ギシギシギシギシギシ・・・!!
「ぐう・・・!!気を失った方がマシかもしれん・・・!!」
壁に叩きつけられてもなお風は穏やかにならず、むしろ勢いを増して剣十郎をエリクをさらに深く壁にめり込ませる。
「ああ・・・ああなったリィスを大人しくさせることができるのは美月さんだけだったのに・・・!!」
「美月・・・」
「軽く現実逃避しないでくれ剣十郎!!」
ちょっと遠い目をしかけた剣十郎をエリクが呼び戻す。
「今は美月さんはいない・・・!この状況でできることはたった一つ・・・!」
「リィス殿を気絶させるしかない!!」
「剣十郎!頼む!!長くはもたないッ!!」
フ・・・
ドサドサッ
吹き荒れていた風が急にやむ。
エリクがこの空間の風の主導権を一時的に自分のものにしているからだ。
なんとか壁から体を引きずり出す二人。
「木刀が・・・!!ならばッ!!」
バッ
素早く大破した木刀の代わりになりそうな棒を手にする。
鉄の刀身が煌き、その切っ先には円形のクッション。
根元からボッキリと折れたカウンター椅子だ。
今この状況ではこの上なく頼もしい。
「おおおおお!!」
すばやく町内会の皆様の体を駆け上がる剣十郎。
「う」
「え」
「あう」
などと声が聞こえるが気にしない。
大勢の命とさらに大勢の命。救うならばどちらか。
もちろんさらに大勢の命。
まさに英雄的な行為が今、剣十郎に求められているのだ。
バッ!!
とうとう頂上にたどり着いた剣十郎は武器を振り上げる。
「リィス殿・・・しばしの眠りをッ!!」
「クス・・・」
ゾクリ
リィスが薄ら笑いを浮かべる。
背筋に冷たいものが走る剣十郎。
「すまない・・・剣十郎」
「!!!!!!!」
どうやらタイムリミットがきてしまったらしい。
空間の風の主導権が再びリィスのものに・・・
「おつまみ欲しいです〜・・・」
ポン。
訳のわからないつぶやきと共に武器を振り上げていた剣十郎の隙だらけの腹にリィスが軽く手を当てると
そこに超圧縮された風の塊が押し付けられる。
ドゴオオオオオオッ!!
「ぬぉぉおおおおおあああああ!!」
ドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッッッ!!!!
天井をぶち抜いて、酒場の周りに立ち並ぶビルの最上階よりさらに上空に瓦礫と共に投げ出される剣十郎。
さらに武器を取り落としてしまい、かなり絶望的な状況に陥る。
下を見ると無残にも崩壊する酒場の光景が目に映る。
そこから飛び出す大きな風の塊が2つ。
店の中にいた人間全てを風の結界に包んで間一髪脱出したエリクと
大出力の風のマイトを身にまとって空に浮かび上がってきたリィス。
あたりはすっかり真っ暗。すでに真夜中になっていたらしい。
しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。
「ぬううああああ!!」
ドゴンッ!!
腹に当たっていた風の塊を横から殴り飛ばすと風の塊は剣十郎の腹から軌道を変え、どこへとも無く飛んでいった。
そして浮かび上がる力がなくなった剣十郎は地上にまっ逆さまに落ちていく。
リィスは剣十郎に向かってグングンその高度を上げてくる。
「なんとしても止めなければッ」
剣十郎は浮かび上がった瓦礫に次々に飛び移り接近してくるリィスに真っ向から突っ込んでいく。
「でりゃあああああ!」
ガキッ!!
なんとかリィスを後から羽交い絞めにすることに成功する。
「エリー――――――――――ク!!!」
「少しおいたが過ぎたようですね」
ヒュ
白衣をたなびかせ空を飛んできたエリクがリィスの前に姿をあらわす。
「もう飲めないにゃ〜」
「てい」
ビスッ
首筋に手刀を一発。
リィスは気絶する。
ドゴシャッ!
そして何のクッションも無いままに地面に叩きつけられる三人。
大の字にひっくり返ったまま剣十郎とエリクは顔を見合わせること数秒。
「・・・」
「・・・」
『はああああああああ〜―――――・・・』
剣十郎とエリクは盛大なため息をつく。
だがそんな彼らに天は休む暇を与えてはくれなかった。
ファンファンファンファンファン・・・
「警察か・・・」
「やっかいだね・・・早々に引き上げた方がいいか」
証拠は瓦礫の下。恐らく町内会の人間は恐怖で口を割らないだろう。
後残る問題は・・・刺客の皆さん。
「一応刺客は事が収まるまで家の近くに埋めておくか」
最低限の空気くらいは支給されることだろうが、さらりと言ってのける当たり容赦が全く無い。
刺客を風の結界で包み込み、リィスは剣十郎が抱えて早々に街から脱出する二人だった。
「長いな・・・」
「長いです・・・」
これまでこれほど街から家まで遠く感じたことは無かった。
重い体を引きずりつつも家路を急ぐ二人。
遥か先の水平線からはうっすらと朝日が差し込んでくる。
「やはり歳を取ったということですかな・・・エリク殿」
「そういうこと・・・ですかね、剣十郎さん」
すっかり口調が元通りになってしまった二人。
賞賛すべき点は・・・死者が一人も出なかったこと・・・
(これが精一杯・・・か)
剣十郎は一人、そんなことを考えていた。
後日・・・
連邦本部に連邦委員あてに届けられた『生物(と書いてせいぶつと読む)』が
連邦委員(ただ一人を除いて)を恐怖のどん底に叩きつけることになったことを追記しておく。
第四話に続く・・・
剣十郎SS第四段〜!
いやはや・・・彼らの強さが際立てば立つほど・・・
彼女の脅威がさらに際立ってしまう・・・(;´∀`)
一部電波な文章を入れました(ぇ
そしてエリクの通り名を読み返してみて一言・・・